不動産マメ知識コーナー
民間入札の弊害
2005.7.
これまで「民間」の不動産取引において、「入札」形式をとることは稀でしたが、最近、特に事業用物件では、売却に「入札」形式を採用するケースが増えています。
その理由は2つあると考えます。
一つは「不動産ファンド」等の隆盛と関係があると思いますが、収益物件やその開発用地では、特に品薄感がすごくて、購入できる物件が少なく、意外なほど高く売却できるケースがあります。
だから物件を「入札」形式と称する【せり】(←あえてこの表現ににしてみました)に掛け、短期間で高く売りさばく方法として利用するのが効率的だと考えるのでしょう。
世間のイメージからすると、「入札」形式は公明正大で、且つ広く購入希望者に
「物件情報」を開示し、売主が納得できる価格で売却することができるものでしょうね。
実はその情報源と成りえるのは銀行系など一握りの不動産業者であり、取引先の囲い込みや営業ノルマの問題・貸付先の思惑もあるようで、必要最小限度しかその情報を口外しないようになっています。
二つ目の理由ですが、実はこれがより重要な問題だと思います。
ご承知のように「入札」形式を使って買主を探すようになったのは、(ほんのこの間までワーワー言っていた)不良債権処理問題の処理を行う際に、『銀行さん』『弁護士さん』が挙って取り入れた頃からです。(注1)
物件の調査がすごく不完全であっても、ひたすらに回収本意で、不動産を売りにかけていた頃です。
その悪しき慣習は、今日の売り手市場における「入札」形式の氾濫へと引き継がれて、不動産業界を闊歩することになってしまいました。
「不動産取引ってそんなものか…」と勘違いした金融界の知恵者が参入してきた為か、はたまた不動産業界の怠慢なのか。
不動産業界の人が「入札」形式に遭遇したときには、必要最低限の「物件資料」(注2)が必要だということだけは、機会あるごとに『声を大にして』言い続けようじゃありませんか!
不動産業者としての仕事は、売買・テナント斡旋等をすることではあるけれども、その前に最低限の信頼関係がなければ、単なる“売り子”とか“走り”(注3)でしかないのですから、不完全な物件資料で物件を紹介し、「売れればいい」とか、「買ってもらえさえすればいいんだ」なんて思われるような行為だけはしたくないものです。
私自身は「不動産取引の髄は人間関係」にあると思っている人ですが、成約まで如何にスムーズに持って行くかには、「入札」では経験できない類のコミュニケーションや信頼を得る必要があると思いますが、ひょっとして「そんなもん必要ない!」→「やっぱりお金が大事」って言うのが世の中の趨勢なのでしょうか。
(注2) 必要最低限の「物件資料」とは…
通常の物件を売りに出すのに、いわゆる「重要事項説明書」みたいなものを用意するのではなく、その物件の【位置図】【地積・土地の寸法図】【建物平面図】【(収益物件であれば)収入金額】…くらいはあって当たり前です。
現実的には話しの進展具合を見て、必要資料を開示していくことが多い。
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(注3) “売り子”と“走り”
“売り子”は一応顧客に対峙し、営業活動を行うものの顧客の都合や事情を考慮せず、ひたすら売り(買い)することの目標を達するためだけに活動する者のこと。
“走り”とは仲介業者(→なかには免許を持たない者も含む)の中で、「物件資料」を単に同業者から同業者へすばやく持ち込むなど、成約時に手数料を要求することのみに全力を注ぎ、その活動に傾注する者のこと。
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